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SFI内部でも意見の相違が若干あるようですが、 SFIが作り上げた複雑性に関する基本的なモデルは、 「複雑適応系(complex adaptive systems- CAS) 」と呼ばれるものを基盤としています。
このモデルには、次の要素が含まれます。 ・ 「平衡」とは程遠い、 「非直線状」の進化体系・独自に判断し環境の変化に対応する「エージェント」と呼ばれる個体の存在・ときとともに変化する「エージェント」問の「ネットワーク」の存衣・個別エージェントの行動によって生まれるマクロ行動・エージェントの相違、彼らによる選別・増幅のアルゴリズムを通用すること  によって発生する「進化」 SFIによると、現存するものの中でもっとも優れたCASの例は、生物の進化であり、この場合「エージェント」とは遺伝子もしくは有機組織を指すそうです。
 ブリュッセル学派とは異なり、 SFIにはその創設時から、 B ・アーサー博士などの経済学者が参加していました。 また、 SFIは、シティバンクや、世界最大手のコンサルティング会社のひとつであるマッキンゼ一社などからの資金援助を受けていました。
ですから、 CASと経済学・経営マネジメントの結びつきは、ブリュッセル学派のそれより、はるかに強くなっています。  一般的に、 SFIメンバーはNCEに対して非常に懐疑的ですが、 CASメタファーについてはそれを経済学のメタファーとして使用するに留まらず、多くのメンバーが「経済はCASだ」とまで言い切っています。

前で、 NCE経済学者がともすると抽象的な数学に依存し、現実社会を無視しがちだということをお話ししました。 では、科学者のように経験的データを駆使して経済に関する彼らの主張を証明するSFIメンバーはいるのでしょうか?実は、ほとんどいません。
 SFI式アプローチの「トレードマーク」は、経験的数値によるものではなく、エージェント・ベース・コンピュータ・モデリング(ABCM)です。 エージェントとは、馬鹿げているほどシンプルな、行動ルールに関する小型ソフトウェアです。
蟻が巨大な蟻塚を築くように、シンプルな個体行動の集大成が、非常に複雑で大規模な結果をもたらす場合がある、というのがアプローチ法で、ゲーム理論や近代コンピュータ学を創造した天才科学者、J・N博士が発明した人工生命理論に基づくものです。  例えば、 SFI研究者が、仮想株式市場で売買を行うエージェントをプログラムしたとしましょう。
複数のエージェントを配置し、様々な取り扱い範囲を設定します。 エージェントの種類も、バリュー重視のもの、技術重視のもの、流動性重視のものなどとバラエティをつけます。
そして、進化アルゴリズムを組み込むことによって、エージェントが個々に成功体験によって行動を変化させていくようにプログラムをします。 そのうえで、システムを走らせる時間、日数、週数や年数を設定。
何が起こるか観察の開始です。  結果は往々にして、現実世界と似たようなものになります。
株価はNCEが提言するような釣鐘状のカーブを描かず、現実の財務データにあるような「ファット・テール型(裾厚分布)」になります(ところで、この「ファットテール」も、近頃の米国のビジネス本でもてはやされている流行言葉です)0 ここで問題は、ではABCMは一体何を証明しているのか、ということです。 コンピュータについては、多くを証明しているかもしれません。
でも、現実世界については、あまり証明してはいません。 その理由のひとつは、この種のモデルからはじき出される結果を解釈する上で、幅広く受け入れられるプロセスがいまだ存在しないことが挙げられます。

生まれる結果には一貫性がなく、再現することが困難です。  この「幅広く受け入れられる」プロセスは、あと10年以内に構築されると言われていますが、構築されればOKという訳ではありません。
なぜなら、 ABCMの結果が現実社会と類似しているからといって、設定したパラメーターによってその現実社会の状況が生み出されたと証明することは困難だからです。  ここに、危険が潜んでいます。
つまり、結果がある一定の正確性を示す一方で、原因と結果を表す真実のモデルが不在の場合、あなたは「現象学(通称『ブラックボックス』)」に散り込んでしまうのです。 遥か昔に常識とされていた、太陽その他の惑星が地球を中心に回っているというモデルが、まさにそれです。
 もうひとつの限界は、 「エージェント」に人間の行動要素の全てを盛り込むことが不可能であるという点です。 いまだ、感情や、個体間の力関係や、その他の人間行動をモデル化できていません。
現実の経済行動は、仮想株式市場モデルのように単純ではないのです。 SFI関連の著名経済学者、 S ・D博士は最近、現実経済がCASであるという経験的証明はいまだできていない、と結論付けています。
 先述のPは、経済はCASであると言うには飽き足らず、ダーウィンの『種の起源』を下敷きにした『富の起源』と銘打った著作を世に送り出し、経済は生物の進化と熱力学の結果だと熱弁を振るっています(生物の進化と熱力学に拠らない人間の活動は、果たして存在するのでしょうか?)。 しかし、そのPやその他のSFIフアンでさえ、 ABCMの限界は認めています。
ABCMは「予測」に使用することが不可能なのです。 なぜなら、プログラムを走らせるたびに結果が異なり、パラメーターを何十回も変えて統計を取ってある数値を把握しても、それが統計であるために、 「この条件でAになる確率は60%、 Bになる確率は30%、その他は10%」といったような結果しか得られないからです。
 実は私は、この点こそが、 「複雑性」的視点を現実のビジネスに応用した場合に役立つ点ではないかと思っています。 世の中の多くの経営者たちが、ビジネスから得られる結果を自らがコントロールできると信じているようです。

]とYとZの手続きを踏めば、売上を15%伸ばせる、といったような。 ブリュッセル学派もSFI研究所も、もっと言ってしまえば私たちの日常の経験も、こんなことは起こりえないと断言しています。
 cASは、エージュントがシンプルなルールに全て従ったとしても、彼らが生み出す結果は予測できないことを示しています。 ソフトウェアでこれですから、生身の人間が加われば、結果は言わずもがなです。
ですから、経営者たるあなたは、求める結果を得るために的確な判断と行動をしつつも、予測と異なる新しい結果が出た場合に対応する備えを怠ってはならないのです。  この教えを体得するために、 「複雑性理論」を読破しなければならないでしょうか?私はそうは思いません。
同じことを、仏教から学ぶことも、米国のイラクに対する戦争での失敗から学ぶこともできるでしょう。 複雑性のアイディアにたまたま惹かれて、この点を「複雑性理論」から学ぶのも結構。
ただし、実戦には、あくまでもメタファーとして役立てるに留めたほうがよいでしょう。  ここまで読んでくれたあなたは、 「複雑性って、ビミョウ」と思ったのではないでしょうか?同感です。
でも実は、複雑性についてはこれで完了というわけではないのです。

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